母さんの絵本

小学校に上がる直前くらいだったかな。
母さんが自作の絵本を作ってプレゼントをしてくれた。

きれいな色つきの厚紙に、ひらがなと絵を交互に書いたオリジナルの物語。

お話は、アオと同じくらいの年齢の女の子が主人公。
その子は風船が大好き。
あるときかわいい真っ赤な風船をもらったのだけど、
うっかり手を離してしまって、風船は空の彼方へ。
女の子は泣いてしまう。

…普通の絵本なら、このあと何か素敵な奇跡が起こって風船が返ってきてハッピーエンド、となりそうなものだけど。
母さんの絵本は違った。

泣きながら眠った女の子は夢を見る。
それは昔飼っていたセキセイインコが出てくる夢。
そこでインコは、女の子の赤い風船をくわえている。

「飛ばした風船はボクがもらったよ」

夢でちょっとほっこりするけれど、逃したものは二度と戻らないのよ、というお話。
現実はそんなに都合よくはいかないのよ、と伝えたかったらしい(じっさいそう言っていた)。

アオは風船が好きでよくもらってた。
でも手から離して飛ばしてしまっては泣いて母さんを困らせていた。
だからその戒めもあったのかな。

幼いアオは少し寂しい気持ちになりながら、そんなもんか…と思ったけど。

でもね。
今なら思うの。
小さい子供に見せるお話は、ハッピーエンドでいい。
ハッピーエンドがいい。

現実はそんな都合よくいかないなんてことは、わざわざ教えなくたってイヤでも学ぶもの。

落ち込んだりへこんだりするときに立ち直る力をくれるのは、
「現実なんてそんなもん」って物語じゃなくて、
ハッピーエンドで心が喜んだ瞬間の気持ち。

たくさんの「温かい思い出」がある人ほど、
何かあってももう一度って立ち上がる力を持っている。
その思い出は、言い換えれば「記憶」。
絵本もそのひとつ。

アオは強くそう思う。

今やるところ!

小学校に上がってからも、ピアノは続けていた。
ヤマハの音楽教室は幼児クラスだったから、
小学校からは文化教室ではなくて、先生が自宅に来る個人レッスンに変わった。

幼児クラスで一緒に習っていたリョウくんと組になって、1ヶ月交代で今月はアオの家、次の月はリョウくんの家と順番こでレッスンを受けた。

音楽も、歌うことも、ピアノも好きだった。
でも、毎日コツコツな練習は苦手(笑)
ありがちなパターンよね。

当時は近所にピアノを習っている子はけっこういて、
団地住まいだったから、夕方くらいの時間になるとどこからともなく練習してる音が聞こえてきた。

その音が耳に入っても、アオはなかなかピアノに向かわずに本を読んでいた。

「アオ、ピアノの練習は?」
母さんに言われて、アオは決まって
「今やろうと思ってたところ!」
と言い返す。
で、
「でもまだやってなかったじゃない、だから言われるのよ」
「言われたからやる気なくした!」

毎日そんな繰り返し。
子供あるある、だよね?

なんでだろうね、嫌々な感じの記憶しかない。
嫌いじゃ、なかったはずなんだけどな。

つくし採り

父さんはバブル時代のサラリーマンにしては珍しく、ゴルフをやらない人だった。
付き合いとかも嫌いだから、土曜日は半ドン(今の子にわかるかー?会社も土曜日は午前中のみお仕事だったのよ)で午後は趣味に、
日曜は家にいることも多かった。

そして、お散歩と言っては私を連れ出してくれた。

春には近所のお寺さんの敷地に行って、外れの方にある広い空き地でつくしを採った。
父さんいわく、お寺さんの敷地内は犬の散歩が少ないから、糞尿被害の心配せずに採れるってね(笑)

かさが開いてるのは呆けていて美味しくない。
まだ閉まっているくらいが新鮮でいいよとか。
たまにヨモギも採って来てた。
こちらはよもぎ餅。
大好きだったよ。

つくしは摘んで来たらはかまを1つずつ剥いて、卵とじ。
このはかまを取るの、母さんは面倒がってたけど、アオは案外、好きだったな。

子供の口にはほろ苦かった。
でもなぜかこれだけは、わりと好きだった記憶があるよ。

そういえは大人になってからは、やってないなあ。

太陽の色

1年生の図工の時間のこと。
クレヨンと絵の具を使って絵を描く授業があった。

入学式の時に「小学校では色鉛筆でお絵かきはしない」と先生に冷たく言われたけど、
クレヨンとかは使うんだねと思ったかどうかは忘れた。

その絵の授業は、もしかしたら「お話を読んで絵を描きましょう」的なものだったかもしれない。

というのは、出来上がった絵がみんながみんな、山があって人がいて、太陽が空にある感じのものだったから。

わりとどれも、似たような仕上がり。
後ろの壁に並べて貼り出された。

その中で、アオの絵だけみんなと大きな違いがあった。
それは、太陽の色。

みんなは太陽は赤かオレンジで描いていた。
でもアオは黄色。

母さんに、そうだよね、太陽は黄色く見えるよね、どうしてみんなは赤やオレンジなんだろうね?と言われた。
誉められた気がして嬉しかった。

実際、どうしてだろうね。
日本の国旗が赤い丸で、その丸は太陽のことだと教えられているからかな?

今時の小学生に太陽を描かせたら、何色で描くのかな。

嫌いじゃないのに

1年生の一学期のことはほとんど記憶にない。
楽しかったとかつまらなかったとか、
先生や友だちのこととか、なにも。

数少ない記憶のひとつが、さよちゃんのこと。

さよちゃんは、同じ団地に住んでいた同い年の子。
そのころ学習塾のアルバイト講師をやってた母さんとさよちゃんのお母さんは、同じ塾で働いていた。

アオはさよちゃんともまぁまぁ友だちだった…はず。
なのに。

1年生の何月だったかは忘れた。
アオは団地の隣の棟に住んでいて、幼稚園時代からよく遊んでいたじゅんちゃんとつるんで、さよちゃんの靴を隠した。

何がきっかけだかも覚えていない。
そんなにひどく喧嘩をした覚えもない。

ただ靴を隠して…正確に言えば靴を校庭の真ん中に放り投げた。
そして靴がないと探すさよちゃんを手伝うふりをして、
校庭に投げ出した靴を見つけた。
じゅんちゃんと一緒に。

先生に怒られた記憶がないから、先生は(疑ってはいたかもしれないけど)気付かないふりをしてくれた。
それが正しいことかは別にして。

その後、アオたちが隣町に引っ越して転校した後も、さよちゃんの一家とはお付き合いが続いていたことを考えると、
靴投げ事件は、アオの親の耳には入っていなかったんだろうね。

…どうしてそんな意地の悪いことをしたのか?
立派ないじめだよね。
なにか鬱憤が溜まっていたのかな…。