渋柿と自転車

アオは小学校卒業までおかっぱ頭だった。
母さんが「あなたはおかっぱが似合う」と言ってずっとそれに従っていたのだけど、
今思えば、母さんが娘の髪を結うのが苦手だったからじゃないかという気もする。

そんな髪型のためか、幼稚園くらいまでのアオは男の子に間違われることも多かった。

そんな秋のこと。
父さんの自転車の後ろに乗って、隣町までサイクリングに出掛けた。
帰り道の住宅街で、ある家が門の外の道端でたき火をしていた。

その横を自転車で通り抜ける時、アオは火の粉が飛んで来そうで、怖くて「通らないで」と半泣きになった。
するとその家の人が出てきて、そんなに怖いなら庭を通っていいよ、と言ってくれた。

アオは自転車を降りて、歩いて庭を抜けさせてもらった。
「坊っちゃん、弱虫だねぇ」
と笑われて、男の子と勘違いされているとわかったけれど、反論する元気もなく。
半泣きのまま家の人に着いて行くと、
「これ、持って行きな」
と、枝がついたままの柿をくれた。

「たぶん渋柿だから、干してから食べるんだよ」
アオは素直に受け取った。

また男の子に間違えられたよ、と父さんに報告をしたら、父さんはまたか、と笑った。

その帰り道、もうひとつ事件が起きるのだけど、その話はまた明日。

ゆるりとお付き合い下さいませ。

続く。

夜のお散歩

父さんのことをあまり書いていないから、今日は父さんとのことを。

父さんは、小さいころはアオをとてもかわいがってくれた。
毎週、週末には近所のテニスコートで同じ団地のテニス仲間と一緒に、テニスをやるのがお決まりだった。
アオもついていって、近所の子供たちと一緒にテニスコートの隅に転がってくる球を拾ったりしていたな。

テニスに行かない時は、よく近所のお散歩に連れて行ってくれた。
うちは父さんも母さんも車の免許を持っていない家だったから、ドライブという記憶はない。
歩いて、お散歩。

団地の近くにはまだまだ空地がいっぱいあって、そうだ、田んぼもあった。
だから春になると田植え前の田んぼに足を突っ込んで、カエルの卵を拾って帰ってきては育てていた。
つくしやよもぎを摘んで、卵とじやヨモギ餅を作ってもらったりもした。

お散歩には、夜に行くこともあった。

あれは夏だったのかな、あまり覚えていないけれど。
父さんと夜、団地の中をお散歩していた。
駐車場を横切って歩いていて、アオがちょっとよそ見をしている間に父さんが少し先へ行ってしまった。

街灯はあるけれど、ひと気の無い夜の駐車場。
アオは父さんに置いて行かれまいとして慌てて走って追いかけた。
と、そこに、車止めのチェーンが張ってあった。
まんまと足を引っかけて、転んだアオ。

手が出る前に顔から落ちてしまい、人生初の鼻血体験。

鼻の根元をつまんで、座って上を向いて。
集会場の薄明かりの下で父さんに言われた通りにしていたら、やがて鼻血は止まった。

幼稚園とかで鼻血を出している子を見たことはあるけれど、自分が出したのは生まれて初めて。
半泣きだったくせに、治まってしまえば
「アオねー、生まれて初めて鼻血出したんだよ」
と周りに自慢げに話していた。

子供っておかしいね。

そんなアオの物語、まだまだゆるりとお付き合い下さいな。

続く。

抱っこ。

トラバテーマから。

「幸せを感じる瞬間」。

それはもう、コレしかないよね。

「娘をぎゅー♪っと抱っこしてる瞬間」。
もう赤ちゃんじゃないからさ、人前でぎゅーってできる年齢でもないのだけどね。
でもおうちではぎゅーって抱っこするよ。
ほっぺたすりすりもするよ。
かわいいもん。

今しか、できないもん。

もうあと何年かな?
あと何回かな?

とか考えるとちょっぴり切なくなるくらい。
だから今、できるうちに、いーーーっぱいぎゅーってしておくんだ。

大人になった娘が、そこから伝わるぬくもりをココロのどこかにしまっておいて、
辛くなった時に「一人じゃないんだ」って思ってくれたらいいな、って。
そんな願いを込めながら。


FC2トラックバックテーマ 第2329回「幸せを感じる瞬間はいつですか?」

哀しみのお団子

それは暑い夏の日のことだった。
アオは幼稚園生くらいかな?
母さんと、病院に行った帰り道。

ふと母さんが、お腹すいた?と聞いてきた。
アオはそれほどでもなかったので、すいてないと答えた。

すると母さんが
「そっか。お腹がすいてたらアイスクリームでもと思ったけど、大丈夫ね」
とサーティーワンの前を通りすぎながら言った。

アイス!!

ふだんひどく少食で食事を残すことも多かったアオは、おやつをほとんど食べる機会がなかった。
おやつを食べて夕飯が入らなくなったら困るから。

だからアイスクリームなんて、めったに食べることができない。
でもアイスクリーム、好きなんだよ!

…けど今さら、やっぱりお腹がすいたなんて言っても、きっとウソだと思われちゃうよね。
言えない…だけどアイス…

小さな頭をアイスクリームでいっぱいにしながら、炎天下の道を歩いた。

…やっぱりアイスを諦めきれない!!

そう思ったアオは精一杯の勇気で
「やっぱお腹すいた」
と母さんに言ったの。

「そう、じゃあお店に寄るか」
母さんが笑顔で言ってくれたときにはサーティーワンははるか向こう。
母さんは迷うことなく、ちょうどそこにあった和菓子やさんののれんをくぐった。

「好きなのを選んでいいよ」
と母さんは言ってくれたけど。
アオはみたらしが好きだったから、みたらし団子を選んだけど。
本当はアイスが食べたかったの、って言えなかった。
お腹なんかすいてないんじゃない?と言われるのが恐くて。

握りしめて帰ったお団子の包み。
一番に食べたいものじゃない、って気持ちで食べるのが、お団子に申し訳なくて。

哀しい気持ちで噛み締めた。

そんなアオの物語、ゆるりとお付き合い下さい。

続く。

おねだり

アオはおねだりに弱い。
娘に「○○を買って」と言われると、その時は「今日の予定にはないから」と断れるのだけど、
この先ずっと買わない、絶対に買わないと言い切るのが苦手なの。

ハッキリとしたダメな理由があるときは別よ?
だけど例えば靴下とか文房具で、いずれは必要になるもので、
アオはシンプルなノンキャラものでいいじゃんって思うけど、
娘に「あっちのかわいいのがいい」と食い下がられると、お金っていう大人の都合だけで断るのも気の毒な気がしちゃって。
甘いね。

それというのも、ダメと言ったら絶対に譲らない母さんの下で育った反動なのかな?

なんかさ、アオの物語を読み返してみると、母さんってとってもひどい人だったみたいに見えない?
そんなことはないのよ?
いっぱい、愛情をかけてもらったって思ってるよ。

やり方がちょっとね、不器用だっただけでね。

まあそんなわけで、アオはおねだりしない子になった。
しても、叶えてもらえないって諦めがあったから。

子供向けのおもちゃも、キャラものとか一切なかったな。
絵本だけはいっぱい買ってくれた。

だからアオはいつも、本ばかり見てたよ。

そういえばおねだりで忘れがたい「事件」があったわ。
アイスクリームとお団子。
長くなるから、詳しくは明日ね。

ゆるりとお付き合い下さいな。

続く。