太陽の色

1年生の図工の時間のこと。
クレヨンと絵の具を使って絵を描く授業があった。

入学式の時に「小学校では色鉛筆でお絵かきはしない」と先生に冷たく言われたけど、
クレヨンとかは使うんだねと思ったかどうかは忘れた。

その絵の授業は、もしかしたら「お話を読んで絵を描きましょう」的なものだったかもしれない。

というのは、出来上がった絵がみんながみんな、山があって人がいて、太陽が空にある感じのものだったから。

わりとどれも、似たような仕上がり。
後ろの壁に並べて貼り出された。

その中で、アオの絵だけみんなと大きな違いがあった。
それは、太陽の色。

みんなは太陽は赤かオレンジで描いていた。
でもアオは黄色。

母さんに、そうだよね、太陽は黄色く見えるよね、どうしてみんなは赤やオレンジなんだろうね?と言われた。
誉められた気がして嬉しかった。

実際、どうしてだろうね。
日本の国旗が赤い丸で、その丸は太陽のことだと教えられているからかな?

今時の小学生に太陽を描かせたら、何色で描くのかな。

嫌いじゃないのに

1年生の一学期のことはほとんど記憶にない。
楽しかったとかつまらなかったとか、
先生や友だちのこととか、なにも。

数少ない記憶のひとつが、さよちゃんのこと。

さよちゃんは、同じ団地に住んでいた同い年の子。
そのころ学習塾のアルバイト講師をやってた母さんとさよちゃんのお母さんは、同じ塾で働いていた。

アオはさよちゃんともまぁまぁ友だちだった…はず。
なのに。

1年生の何月だったかは忘れた。
アオは団地の隣の棟に住んでいて、幼稚園時代からよく遊んでいたじゅんちゃんとつるんで、さよちゃんの靴を隠した。

何がきっかけだかも覚えていない。
そんなにひどく喧嘩をした覚えもない。

ただ靴を隠して…正確に言えば靴を校庭の真ん中に放り投げた。
そして靴がないと探すさよちゃんを手伝うふりをして、
校庭に投げ出した靴を見つけた。
じゅんちゃんと一緒に。

先生に怒られた記憶がないから、先生は(疑ってはいたかもしれないけど)気付かないふりをしてくれた。
それが正しいことかは別にして。

その後、アオたちが隣町に引っ越して転校した後も、さよちゃんの一家とはお付き合いが続いていたことを考えると、
靴投げ事件は、アオの親の耳には入っていなかったんだろうね。

…どうしてそんな意地の悪いことをしたのか?
立派ないじめだよね。
なにか鬱憤が溜まっていたのかな…。

入学の日

そんなアオも、小学生になった。
家から歩いて15分くらいのところにある、公立の小学校。

団地の近くの学校だったから、子供もクラスも多かった。
幼稚園で一緒だった子が多くて、不安とか寂しいとかは思った記憶がない。
アオは1年5組。

入学式の会場に入る前、教室で待機していた時のこと。
待ち時間には席に座ってさえいれば自由にしていいという感じだった。

アオはお絵かきでもしようかと、自由帳を取り出した。
そして筆箱。
…持ち物に色鉛筆とは書いていなかったから、色鉛筆がない。
お絵かきなのに。

そこでアオは先生に、
「お絵かきをしたいけど色鉛筆がないから貸してください」
と声をかけた。
すると先生は――恐らく男の先生だったと思う――
「小学校ではお絵かきに色鉛筆は使わないから。赤鉛筆と黒の鉛筆で書きなさい」
と冷たく言い放たれた。

アオは…
小学校ってつまんないんだな
と思った。

その気持ちだけはハッキリと覚えている。

きーこ

三宅島から帰ってきてすぐ、小学校入学直前の春休みだったと思う。
セキセイインコの雛を飼ってもらった。

少し前に父さんが餓死させちゃったインコたちは、母さんがお世話していたのだけど、
新しくお迎えした子はアオが面倒を見る約束で。

全身が真っ黄色で赤い目をしたその子を、アオはきーこと名付けた。

一人餌になってたのかな。
それともまだ挿し餌だったかな。
覚えてない。

アオは、きーこを構いたくて構いたくて仕方がなかった。
それで、きーこに羽が生え揃ってすぐ、「飛ぶ訓練」を始めた。

訓練、なんて言っても専門知識なんか無い小学1年生。
高い位置に持ち上げて、パッと手を離す。
きーこ、怖かっただろうな。
本能的に羽は広げるけどさ、いきなりうまく飛べるはずもないよね。

壁にぶつかったり、タンスの後ろに落ちたり、したと思う。
そして、きーこは右回転しながら地面に着地することしかできない鳥になった。

たぶん…
タンスの後ろに落ちた時とかに、脚を折ったんじゃないかと思う。
鳥さんは不調を隠すから。
若鳥で、回復力があったから。
きっと、折れたまま成長しちゃったんだと思う。

虐待だよね…
その時は、精一杯かわいがってるつもりだったんだけどね…

きーこ、ごめんね。
今思っても申し訳なくて切ないよ。

船旅

幼稚園を卒園して、入学前の春休み。
アオの家族は三宅島に旅行に行った。

初めての船旅。
調子に乗って甲板に出ていて、あっけなく船酔い(笑)

着いた宿の入り口に大きな水槽が置いてあって、光が当たるとプリズム効果で七色に光るのが面白くて、ずっと眺めてた。

島にはいっぱいゴツゴツした岩があって、それは熔岩だよって、
むかしに山が噴火した時にこんなところまで、こんな塊が飛んで来たんだよ、と教えてもらった。
こんなのが降ってくるなんて!昔の話で良かった!
…と幼心に思ったのに。
まさかそれが、ほんの数ヵ月後にまた本当に噴火するなんて、予想もしなかった。

噴火のニュースが流れた時、あの民宿は無事だろうか、とテレビにかじりついていたのを覚えている。

帰りの船が港を離れるときに投げた紙テープ。
ゴツゴツで穴だらけの岩の道。
そして水槽のプリズム。
目の奥にはそんな風景だけがくっきりと残っている。